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感想 『どうして羽生さんだけが、そんなに強いんですか』 梅田望夫著

「どうして羽生さんだけが、そんなに強いんですか」

将棋ファンの間では波紋を呼んだタイトルである。あまりの波紋の大きさに著者がブログ上で弁明(?)記事を書いたほどだ。
将棋ファンならば羽生善治とライバル関係にある棋士が何人もいることを知っている。それだけにこのタイトルに違和感を持った人が多かったのだろう。

著者は、この問いは将棋を知らない人々にとっては「自然な問い」であるが、一方で将棋関係者からすれば「残酷な問い」でもあるのだと述べる。

 しかし、綺羅星のごとくプロ棋士たちがひしめき合う現代将棋の世界で、羽生善治だけがただ一人、圧倒的な実績を残しているのも事実である。
 だから人々は「どうして羽生さんだけが、そんなに強いんですか?」と問うのだ。詳しいことなど知らないほうが、かえって本質を射抜くこともある。将棋の世界を一歩外に出れば、この「残酷な問い」こそが「自然な問い」であり、そしてそれは、答えに窮する難問中の難問でもあるのだ。

本書p8,9より引用


羽生善治という存在抜きにして今の将棋界は語れない。「難問」であるとはいえ、その「自然な問い」に何かしらの回答を出さなければ、将棋の世界がどのような世界なのか、どのような魅力があるのか伝わるわけがない。羽生善治の強さを説明することは、即ち今の将棋界で何が起こっているかを説明することなのだ。

しかし、この「残酷な問い」を説明せよと棋士達に言えようか。日々「羽生善治という人の壁」にぶち当たりもがき苦しんでいる彼らに「羽生善治だけが強い理由」を説明させるのは酷な話だ。今回の試みは、棋界を客観視することができる「アウトサイダー」であり、棋界に深く関わり、棋士達と非常に近い立場にある「インサイダー」でもある梅田望夫だからこそできたのだろう。

前著『シリコンバレーから将棋を観る―羽生善治と現代』で梅田は普段将棋を指さないが将棋界に興味がある人々に、堂々と「指さない将棋ファン」宣言することを提案した。同書は大きな反響を呼び、将棋を観戦中心に楽しむ、いわゆる「観る将棋ファン」が増えた。

今回は将棋ファンの裾野をさらに広げる試みである。将棋にはほとんど興味がないが羽生善治だけは知っているという人はかなりの割合で存在する。「羽生善治だけは知っている」という人々に将棋界の魅力を伝え、「将棋ファン」(観る指す問わず)になってもらうために著者はあえて刺激的なタイトルをつけたのだろう。

さらに言えば、このタイトルは「もしあなたがた(将棋ファン)が『どうして羽生さんだけが、そんなに強いんですか』と問われたら、あなたはどう答えますか」という将棋ファンへの問いかけでもあると思う。タイトルに一瞬違和感を抱きながらも、改めて羽生善治の強さの理由を考えてみたファンは私だけではないはず。数日考えただけでは答えの出ないような難問だが、他の将棋ファンがどういう答えを出すかいつか聞いて(読んで)みたいものだ。

さて、本書は五つの章から成り立っている。
はじめに―残酷な問いを胸に
第一章 大局観と棋風
第二章 コンピュータ将棋の遥か上をゆく
第三章 若者に立ちはだかる第一人者
第四章 研究競争のリアリティ
第五章 現代将棋における後手の本質
あとがき 誰にでも最初はある



各章とも羽生善治が昨年から今年にかけて戦った将棋のリアルタイム観戦記と後日、本人ないし関係者に対して行われたインタビューとで構成されている。この構成はスポーツドキュメンタリー番組を観ているかのようで良かったと思う。

どの章も面白いのだが、将棋界にはそれほど詳しくなく、「どうして羽生さんだけが強いの?」という疑問を持って本書を手に取った方にお勧めなのが、第三章。第一人者を超えるには単に技術面だけでなく、「羽生善治」という人間との闘いに打ち勝たねばならないことがわかる。羽生善治が「怖い」「恐怖心がまだぜんぜん拭えない」と吐露する山崎隆之。自らの心の弱さを素直にさらけ出しているが、その人間臭い部分が彼の魅力でもある。今まで数多くの棋士達が羽生善治について語ってきたが、羽生のことを「むかつく」と言い放ったのは彼が初めてだろう。(笑)余談だが、最もアーティスティックな棋士は誰かと問われたら、私は山崎隆之の名前を挙げる。

個人的に興味深かったのは第5章。
現代将棋では、日々新手が誕生しているが、その新手に著作権はあるのか。若手棋士の研究がトップ棋士によってタイトル戦で公に出された場合、それは誰の成果となるのか、前から私が疑問に思っていたことを深浦は「料理人」と「素材」という喩えを用いて説明している。そして、研究競争の激化がもたらす弊害も指摘している。深浦の「本当の研究合戦って、定跡を疑うところから始まるんですよ。」という言葉が強く印象に残った。

私は、前著『シリコンバレー―』を読んで深浦康市のファンとなった。王位失冠後も調子を取り戻せないでいる彼を見るのは辛いものがあるが、ぜひとも捲土重来を果たしてほしい、また大舞台に戻ってきてほしい、そう願っている。

それにしても将棋を題材にして、これほどまでに面白い作品を作り上げるとは!
著者梅田望夫もまた超一流の「料理人」であることを改めて実感させられた。

どうして羽生さんだけが、そんなに強いんですか?―現代将棋と進化の物語どうして羽生さんだけが、そんなに強いんですか?―現代将棋と進化の物語
(2010/11/25)
梅田望夫

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[ 2010/12/06 20:00 ] 書籍レビュー | TB(0) | CM(0)
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